絵画感想文 〜臨床心理士がアート作品と対話しながら鑑賞し、作品の意味について考え、感受性を磨く訓練をしてみました〜

知識はなく、解説はできません。思い浮かんだことを、自由に書いていこうと思います。作品との対話による美術鑑賞や、ハウゼンとヤノワインのVisual Thinking Strategy(VTS)をやってみた、という感じです。

2019-01-01から1年間の記事一覧

062.ジャン=ミシェル・バスキア ≪Untitled≫ 1982年 個人蔵

Untitled 2017年5月にZOZOTOWNの前澤社長が123億円で落札した本作品。 東京の森アーツセンターギャラリーで 2019年9月21日(土)~11月17日(日)まで開催される “バスキア展”で観ることができる。 一目見て、荒々しいタッチから、力強さを非常に感じること…

061.吉原治良 ≪黒地に赤い円≫ 1965年 兵庫県立美術館

黒地に赤い円 赤は血かなと思う。 描かれたものが×印だったら、危険というメッセージを 受け取っただろう。 ◯なので、血の上に平和が成り立つんだ、 平和ボケするな、といったメッセージを感じる。 赤は唇で、中の黒は口の中にも見える。 赤はリンゴで、黒い…

060.髙山辰雄 ≪食べる≫ 1973年 大分県立芸術会館

食べる 炎に包まれる中で、彼は食べているのだろうか。 いや、彼は暑がっておらず、 赤は彼の怒気のように思われる。 彼はものすごく怒っている。 そのため、怒りのパワーが外にあふれ出ている。 その怒りを行動に移さないでなんとか押しとどめ、 行動に移す…

059.ポール・セザンヌ ≪カード遊びをする人々≫ 1892~96年頃 コートールド美術館、イギリス

カード遊びをする人々 2019年9月10日(火)~12月15日(日)まで東京都美術館で 2020年1月3日(金)~3月15日(日)まで愛知県美術館で 2020年3月28日(土)~6月21日(日)まで神戸市立美術館で 開催される“コートールド美術館展”で 見ることができる作品を取り上げる。…

058.エドゥアール・マネ ≪オランピア≫ 1863年 オルセー美術館、フランス 

オランピア 正直、ぎょっとした。 ヌードの白人女性の後ろに、黒人の家政婦が描かれている。 白人の気品ある男性が後ろにいたら、 白人の女性は恥ずかしさで このようなポーズは取れないだろう。 黒人の女性だから、 対等な人と扱っていないからこそ、 その…

057.ジャン・デュビュッフェ ≪騒がしい風景≫ 1973年 ポンピドゥーセンター、フランス

騒がしい風景 タイトルを見ると“騒がしい風景”とある。 確かに初見では、乱雑さを感じる。 しかし、うるさくて迷惑な感じはしない。 楽しくわいわいやっている感じを受ける。 なぜかを考えてみる。 1番は、全てが黒枠で囲われているからだろう。 それにより…

056.熊谷守一 ≪あかんぼを≫ 1965年 個人蔵

あかんぼを 母が赤ちゃんを抱えている。 両手で抱えていること、 温かみを感じることから、 母は優しく抱いていることがうかがえる。 赤ちゃんの方も、 手や足が丸まっていることから、 母の腕の中で安らかにくるまっていることが うかがえる。 母の表情も赤…

055.フランシス・ベーコン ≪人体の習作≫ 1949年 ビクトリア州立美術館、オーストラリア

人体の習作 タイトルには“人体の習作”とある。 しかし、男性らしき人は後ろを向いている。 後ろ姿の習作なら分かるが、 なぜこれが人体の習作なのだろうか。 後ろ姿こそが、その人の人となりを表す。 背中で語る、ということなのだろうか。 人は裸で、どこか…

054.ルシアン・フロイド ≪バラを持つ女≫ 1947~48年 ブリティッシュ・カウンシル・コレクション、ロンドン

バラを持つ女 精神分析の祖、ジクムンド・フロイドの孫の作品を 取り上げます。 目をギョロつかせた女性が 手にバラを持っている。 バラといえば、 遠くから見る分には綺麗だが、 近すぎるとトゲがあるのでケガをする、 距離を縮め過ぎると危険な魔性の女性 …

053.アントニ・クラーヴェ ≪スイカを持つ子ども≫ 1947~48年 テート・コレクション、ロンドン

スイカを持つ子ども 着飾った顔面蒼白な子どもが スイカを持っている。 CMを撮る前の 子役スイッチを入れる前の 緊張した子どものように見える。 監督が「スタート」と言った瞬間 彼の表情はぱっと明るくなり、 スイカにかぶりつく。 その数秒前のシーンに見…

052.マックス・エルンスト ≪セレベスの象≫ 1921年 テート・コレクション、ロンドン

セレベスの象 タイトルには“象”とあるが、 中央に描かれているのは、 何かの大きな装置のようである。 確かにその装置は象のようであり、 装置から出ている管は 象の鼻にも尻尾にも見える。 私には尻尾に見え、 象の後ろ姿が大きく描かれているように感じる…

051.エドガー・ドガ ≪舞台の踊り子≫ 1876~77年 オルセー美術館、フランス

舞台の踊り子 右に、踊っているバレリーナが描かれている。 腕の微妙な形や衣装から、優美さが伝わってくる。 しかし、私は舞台のそでが気になる。 黒い服を着た人は舞台監督だろうか、 踊っているバレリーナのコーチだろうか。 そでには、他のバレリーナが…

050.ピエト・モンドリアン ≪赤、青、黄のコンポジション≫ 1930年 チューリッヒ美術館、スイス

赤、青、黄のコンポジション これが絵なの? と子どもの頃にとても不思議に感じたことを思い出す。 これを絵として発表した モンドリアンの度胸に圧倒される。 これが絵なの?と何度も何度も質問されたことであろう。 これを評価した人にも感嘆を覚える。 確…

049.エゴン・シーレ ≪洗濯物のある家≫ 1917年 個人蔵

洗濯物のある家 奥行きがない。 遠近法を使わず、 真横から見ている絵となっている。 子どもが描いた絵のようだが、 敢えてそうしているのだろう。 おんぼろの家の前に たくさんの洗濯物が干されている。 空と家の壁の灰色さも加わって、 貧しい生活を送って…

048.ジャン=フランソワ・ミレー ≪晩鐘≫ 1858~59年 オルセー美術館、フランス

晩鐘 “今日も一日、無事に作業ができました。 神様、ありがとうございました” と祈りを捧げていそう。 この時間に仕事を終えて帰途につけるという 日々をきちんと過ごしていることへの 尊さが描かれている。 地に足がついた生活を送っていることへの 貴重さ…

047.ジャン=バティスト=カミーユ・コロー ≪ヴィル・ダヴレー≫ 1835~40年 石橋財団ブリヂストン美術館、東京

ヴィル・ダヴレー 単なる森の小道を、 ここまで芸術作品として仕上げることができるのか というのが、最初の感想だ。 下手な人が描いたら、 何の変哲のない作品になってしまうだろう。 木々のおい茂り具合、 朝焼けか夕焼けのふんわりした光の加減と空気感、…

046.フィンセント・ファン・ゴッホ ≪夜のカフェ・テラス≫ 1888年 クレラー=ミューラー美術館、オランダ

夜のカフェ・テラス 第一印象では、 ゴッホはこんな温かみのある作品を描けるんだな、 と思った。 ゴッホといえば、 もっとおどろおどろしい 対象物に迫り過ぎた 作品を見ていると息苦しさを感じることがあるものを 描く人と思っていたので、 とても意外に感…

045.J.M.W.ターナー ≪国会議事堂の火事 1834年10月16日≫ 1835年 フィラデルフィア美術館、アメリカ

国会議事堂の火事 1834年10月16日 対岸の火事が幻想的に描かれている。 おどろおどろしい雰囲気は感じない。 燃えている物や炎といった火事に関するものが 直接的には描かれておらず、 距離をとってぼんやり描かれているからだろう。 本作品の観客は対岸から…

044.パウル・クレー ≪Part of G≫ 1927年 ベルリン美術館、ドイツ

Part of G 月に照らされた、ある街が描かれている。 星の王子様の挿絵のようだ。 非常に安定感を覚える。 こじんまりで、そこだけで完結している感じがする。 建物が色とりどりで、 明るいイメージを抱かせるからだろう。 建物がいろんな方向に建っており、 …

043.東山魁夷 ≪道≫ 1950年 MOMAT(東京国立近代美術館)

道 人が行き交い、地面が踏みしめられ、整備され 道ができる。 そのようにしてできる道が、登り坂になっている。 本作からは、 ポジティブなメッセージをたくさん受け取れる。 どんどん道が整備され、 どんどん生活がしやすくなり、 どんどん社会が豊かにな…

042.ラウル・デュフィ ≪ドーヴィル競馬場、レース開始≫ 1929年 フォッグ美術館、ボストン、アメリカ

ドーヴィル競馬場、レース開始 タイトルには“レース開始”と書かれているが、 観客はまばらで、 熱心に声援を送っている人はいなそう。 このレースに人生をかけている といった緊張感は伝わってこない。 ピクニックに来たような感じで、 牧歌的な感じも受ける…

041.ウジェーヌ・ブーダン ≪ドーヴィル、波止場≫ 1891年 バレル・コレクション、スコットランド

ドーヴィル、波止場 2019年4月27日(土)~6月30日(日)まで東京・Bunkamura ザ・ミュージアムで 2019年8月7日(水)~10月20日(日)まで静岡市美術館で 2019年11月2日(土)~2020年1月26日(月)まで広島県立美術館で 開催される“印象派への旅 海運王の夢 バレル・コ…

040.松本峻介 ≪Y市の橋≫ 1943年 MOMAT(東京国立近代美術館)

Y市の橋 暗さを感じさせる絵だ。 川が橋の奥でどうなっているか分からない。 先の見通せなさを感じる。 工場の煙突に煙がなく、活気も感じない。 橋を渡って右から左に行っても、 反対に左から右に行っても、 先に明るさを感じない。 人も黒い。 行き詰まり…

039.オーギュスト・ルノワール ≪ピアノに寄る少女たち≫ 1892年 オルセー美術館、フランス

ピアノに寄る少女たち ピアノを弾いている少女と その少女の隣でピアノに片肘を置いている少女が 中心に描かれている。 和やかな空気が漂っていることがうかがえる。 その空気を描けることに感銘を受ける。 暖色中心の配色で、少女たちや部屋に暖かさを感じ…

038.ジョルジョ・モランディ ≪静物≫ 1916年 MoMA(ニューヨーク近代美術館)

静物 テーブルの上に細長い水差しやビンが描かれている。 どれも細長くて貧弱に見える。 そう見ると、テーブルの脚も貧弱で、 貧弱な土台の上に貧弱なものがのっている構図 であることが分かる。 いつ崩れてもおかしくない、危うさを感じる。 色に目を向けて…

037.佐伯祐三 ≪ガス灯と広告≫ 1927年 MOMAT(東京国立近代美術館)

ガス灯と広告 まさに思春期心性を表した絵であろう。 社会全体が自分を屈服させようとする敵に見え、 とがってしか生きることができない時期の心のあり様を 見事に表現している。 購買意欲を高める、本来なら甘く誘ってくる広告の文字が 自分を社会に溶け込…

036.ルーチョ・フォンタナ ≪空間概念≫ 1949年頃 フォンタナ財団、ミラノ

空間概念 赤いものをカッターで切ったら 下の黒地が見えた、ということだろうか。 タイトルは≪空間概念≫とある。 確かに、奥行きを感じ、3次元で本作を見ている。 しばらく眺めていると、 なぜ4本にしたのか気になってくる。 左から順に切っていき、 1番…

035.ルネ・マグリット ≪光の帝国Ⅱ≫ 1950年 MoMA(ニューヨーク近代美術館)

光の帝国Ⅱ 日中に陽の当たらない場所に集う人々が 世界の重要事項を秘密裏に決めていく。 そんな不気味さを一瞬で伝えることのできる作品だ。 青空に雲がいくつか浮かんでいる。 のどかな上部と不穏な下部のコントラストは見事だ。 一般人が下部に対してアプ…

034.加山又造 ≪春秋波濤≫ 1966年 MOMAT(東京国立近代美術館)

春秋波濤 雅(みやび)。 この言葉に尽きる。 波濤とは、 辞書を調べると、大きな波とある。 陰ながらの支援者(満月)の力を借りながら、 波瀾万丈(大きな波)を乗り越えて 大業(咲き誇っている桜や、紅葉している楓や銀杏)を成した。 言葉で説明すると…

033.エゴン・シーレ ≪抱擁(恋人たち)≫ 1917年 オーストリア美術館

抱擁(恋人たち) お互いに髪を逆立てながら、 男性と女性ががっしりと抱き合っている。 布団のぐちゃぐちゃ具合、 布団の外側が火にも光にも見えることから、 激しい戦いのような抱擁に見えるが、 男性と女性のポーズは意外と普通。 内なる戦いが展開されて…