絵画感想文 〜臨床心理士がアート作品と対話しながら鑑賞し、作品の意味について考え、感受性を磨く訓練をしてみました〜

知識はなく、解説はできません。思い浮かんだことを、自由に書いていこうと思います。作品との対話による美術鑑賞や、ハウゼンとヤノワインのVisual Thinking Strategy(VTS)をやってみた、という感じです。

037.佐伯祐三 ≪ガス灯と広告≫ 1927年 MOMAT(東京国立近代美術館)

f:id:hi02:20190407230415j:plain

ガス灯と広告

まさに思春期心性を表した絵であろう。

 

社会全体が自分を屈服させようとする敵に見え、

とがってしか生きることができない時期の心のあり様を

見事に表現している。

 

購買意欲を高める、本来なら甘く誘ってくる広告の文字が

自分を社会に溶け込ませようとするものにしか見えず、

トゲトゲしい、自分を傷つけてくるものとしか認識できない。

 

描かれている人は自分なのか他者なのか不明だが、

自分を描いたとしても、

自分はまだ社会にどっしり根をおろしていないので、

角が取れた丸みを帯びた存在として描くことはできない。

他者を描いたとしても、

広告と同様に、自分を丸めこもうとする存在としてだけ捉えてしまい、

全体をきちんと捉えることはできないので、

細い存在になってしまう。

 

ガス灯がともっていれば、

少しはほっこりするだろうが、

もちろんともってはいない。

温かみのあるものは存在しない。

 

空は描かれていないが、

心と同じで、厚い雲に覆われているだろう。

 

思春期心性にある多くの人を惹き付けてやまない作品だろう。

是非そういう人に見てもらいたい作品だ。